第27回|「突然の出会い」
松浦 菊子(仮名)【(65歳・静岡県在住)】
息子が選んだ順子さんは物腰も柔らかくやさしい感じでしたが……
息子がふたりいるのに、なかなか孫の顔も見られず60代も半ばになり、最近は少しあきらめてもいましたが、この度、長男が結婚することになりました。
実は……2回目です。
長男は25歳のときに一度結婚したのですが、わずか2年で離婚。
相手のお嬢さんは、きゃあきゃあした感じの落ち着かないひとで、私としても離婚に異存はありませんでした。
まだ20代だし、すぐに次が見つかるだろう……くらいに思っていたのですが、それから8年。
息子から浮いた話の一つも聞かず、このまま独身だったらどうしようと、不安になってきていました。
今回のお相手は落ち着いた感じの女性で、物腰も柔らかくやさしい感じです。
私もすっかり気に入り、心の中で『よくやった!』とガッツポーズしていました。
ところが結婚の知らせにただ喜んでいた私に、青天の霹靂が……。
2回目にお会いしたとき、相手の方……順子さんに、今年7歳になる娘さんがいるとわかったのです。
お互い再婚同士だとは聞いていたのですが、まさか子連れとは。
ぴょこんと頭を下げる様子が可愛くはありましたが、7歳といえば、もう物心もついており、息子が本当のお父さんではないとわかっています。
そんな状態でやっていけるのかとものすごく不安になり、一旦は賛成した結婚に、やっぱり反対! と言ってしまいました。
だって、人様の子どもですよ。
何も苦労を自分から背負い込むようなことをしなくてもいいじゃないですか。
35歳でも、男ならまだまだ他にいい人がいるはずです。
息子は気がいいから騙されているんだと思いました。
元からグイグイ引っ張っていくというよりは、自然と周囲から持ち上げられてリーダーを務めるタイプです。
学生の頃から、学級委員や生徒会長、ボランティアサークルの代表などをしていましたが、立候補したことは一度もありません。
その団体の中を見回したときに、息子だったら丸く収めるだろうと思って周りが根回しをして役につけるといった感じでした。
でも不思議なことに一旦引き受けるとうまく回すんです。
偉そうぶることなく、言うべきことはちゃんと言えるのが、いいところのようです。
ただ押しに弱いところがあるので、今回も押し切られたんだとばかり思っていました。
ともかく私は反対しました。
しかしふたりの意思は固く、それから何度も説得にきました。
なかなかうんと言わない私に、とうとう息子が「もう子どもじゃないし2回目なんだから、母さんの承諾なんて本当は必要ないんだからな。
俺がどんな想いで順子を口説き落としたと思ってるんだ。
いい加減にしてくれよ」と言いました。
よく聞くと『子どもがいるから』という理由で結婚を断っていたのは順子さんの方だったのです。
迷惑をかけるから……と。
それを息子が時間をかけて口説き落としたそうなのです。
嫁が用意した留袖はレンタルとは思えないほど肌になじみました
ある日息子が「頼みにくるのは今日が最後だよ。
明日入籍することにしたから」と言いました。
そして順子さんが「お母さん、私たち記念に写真だけは撮ることにしました。
私に娘がいることでお母さんが不安に思われるのはもっともなのですが、私たちはお互いをとても必要としています。
本日3時より写真館を予約しております。
お越しいただけませんか? お母さんの衣装も用意させていただきました。
どうか私たちを許して、祝福していただけませんか? 私たちはお互いに一度失敗しているので、結婚生活が自分たちのためだけのものでなく、周りの方々にも影響を及ぼすものだと良く分かっています。
だからこそ、お母さんにも納得していただきたいんです」と言いました。
「行きませんよ」と言ったものの……子どもがいることを除けば、順子さんは理想的な女性。
その子どもの千沙ちゃんも、子どもにしてはしっかりしています。
しつけがいいからなのでしょう。
じゃあ、私は筋違いにゴネているだけなのかしら?「衣装はスーツなの?」「いえ、やはり結婚式には留袖を着ていただきたいので。
お着物の方が品格がありますし、サイズの調整が効きますから」と言いました。
なんだか負けたな、と思いました。
その日の午後、私たちは写真館で記念写真をとりました。
順子さんの用意した留袖は、レンタルとは思えないほど肌になじみ、しっとりとした重みが、私のうわずった心を落ち着かせてくれました。
最後に、せっかくご縁があって結婚するのだから、今度こそ添い遂げてほしいものです。
そのためには、自分の我を通すのはほどほどにして、まぁ当面は突然始まる子育てを頑張ればいいと思います。
私も突然できた孫を可愛がることに決めましたので。